名古屋から新幹線を使って埼玉県草加市の渡辺教具まで来てくれました。5年生、6年生の記者たちは事前の勉強ぶりもすごく、大変よい質問を矢継ぎばやにいただきました。だんだん私の近く、30センチぐらいのところまでに寄っての白熱の好奇心。取材はとても嬉しく、また6人の記者たちのそれぞれの成長がたのしみです。
渡辺教具製作所社長 渡辺美和子
クルッと回せば世界一周旅行−。学校で、家で、地球儀を眺めながら未知の国や地域にわくわくしたことはありませんか。地図と似ているのによく見ると違う、不思議な地球の模型。こども記者は、埼玉県草加市にあるメーカーの渡辺教具製作所で、地球儀の世界を探検してきました。
工場に入ると、大きな机に地図が半分はられた合成樹脂の球、横には地図が印刷された紙やぬれタオル、ノリ、アイロンなどがズラリ。まだ地球儀になる前のボールのようなツヤツヤした球も、あちこちで出番を待っています。
「ここは高級品の手ばりの作業場。円すい展開図法で印刷された地図を、腕のいい職人さんが一枚一枚切り離し、球体にはっていきます」と、社長の渡辺美和子さんがその方法を見せてくれました。
地球儀の土台になる球は別の場所で半球の形で作り、後で合わせます。地図も別の工場で印刷され、ここで仕上げるのです。とはいえ作業は大変。湿度で伸びたり縮んだりする紙をぬれタオルで調節、ノリを塗って球にはり、その上からアイロンをかけます。 「ノリは特製で企業秘密。紙の伸びは職人さんの技で解消して仕上げますが、〇・五ミリでもずれたらはがしてしまいます」ときっぱり。この作業は神経が集中できる午前中に限っており、一日にできるのは四人で合わせて十二個ほど。「根気強さ、集中力がとても大切」と言います。 隣は機械で作る部屋。花びら形の厚紙の地図を機械で半球にして、二つを合わせるとできあがりです。でも「こちらも熟練の技が必要。失敗もあるんですよ」と渡辺さん。 しかも作る作業に負けないくらい力を入れるのが「正確で読みやすい」ことを実現するための情報収集や工夫。政府や宇宙航空研究開発機構、大学などから世界中の最新の情報をいつも集めています。 「変更が決まれば、さまざまな調査をし、本も何冊も読みます」と明かします。文字の形や大きさ、火山などのマークにも研究を重ね作り上げるのです。「今は人工衛星のデータを取り入れ、環境に配慮したものをと再生紙も使っています」と聞き、記者たちはその努力に感心しきり。 建物内のミニ博物館も見せてもらいました。約三百年前のオランダで作られたファルク地球儀のレプリカ、サッカーボールの地球儀や月球儀など珍しいものがいっぱい。色覚障害の人にも見やすいユニバーサルデザイン地球儀、世界中の飢餓の国や国別に二酸化炭素の排出量を記した緑の地球儀も。この会社が開発した数々に、記者たちはすっかり目を奪われました。 「地球をそのままの形で縮めて作る地球儀は面積や距離が正確。砂漠化による湖の消滅など興味深い情報もたくさん入っていますよ」と渡辺さん。もう一度お気に入りの地球儀に見入る記者たちに「みんなはどんな地球儀が欲しい?」と、新たな挑戦に意欲を見せていました。