関東経済産業局の広報誌「いっとじゅっけん」に
関東経済産業局長と当社社長の対談が掲載されました。

発明 - The Invention - 2001年6月付

しなやかに勁く−女性経営者・指導者に聞く
手で貼る。それが、地球儀にとっての“ハイテク”です。

 ブルーテラ、ラ・メール、夜の地球儀等ユニークなネーミングの地球儀を作っているアイデアウーマンの(株)渡辺教具製作所代表取締役渡辺美和子さんに、高橋関東経済産業局長が企業経営、地球儀製作への情熱について伺いました。(株)渡辺教具製作所は埼玉県の「彩の国工場」、草加市の「うるおい工房」に指定され、企業活動を通じて地域貢献をしています。

■社長就任の第一歩は体質改善

高橋:(株)渡辺教具製作所には、昨年、草加商工会議所のご紹介で訪問しましたが、大変ユニークな地球儀が並んでいたことが印象深いものでした。渡辺社長はご主人が亡くなられて事業を受け継がれたのですね。
渡辺:主人が3代目で私が4代目です。息子がまだ学生でしたので次の代への中継ぎということで社長を引き受けました。平成7年に受け継いだときは経営状態は決して良い状態では無かったのです。やらなくてはならないことの第一歩が体質改善でした。すぐ、手を着けました。コストの見直し、状況を従業員に説明をしてボーナスの停止、勿論、社長の給与カット等あらゆることを行いました。なかなか辛いのですが65才以上の方には辞めていただきました。支払いを手形でお願いもしました。  そのような状況から始まったので、今、景気が良くないのですがスタート時に比べればまだ良いと思います。
高橋:大変な時を乗り越えられたので今があるのですね。ところで、元々は普通の地球儀だけ作られていたのですか。
渡辺:初代の祖父、渡辺雲晴がアイデアマンでしたので維持費が大変なくらい特許をたくさん取っていました。また、僧籍を持っていましたので、地球儀を作って儲けようと言うのではなく、地球儀、天球儀の本格的なものを作りたいという意欲で個人商店として昭和12年に創業しました。私が引き継ぎましてからも初代の話は色々なところで出ました。例えば、3年前に火星儀を作りましたときに、天文博物館・五島プラネタリウム館長で天文学者の村山定男先生にラテン名の日本語訳が難しいのでご相談に行きましたところ「初代にはお世話になりましたから」と言って快く引き受けていただきました。こういうことってとても嬉しかったですね。  日本語訳は訳してしまうとその訳が定着してしまい、大変な作業なので、村山先生にお手伝い願ったのです。また、天文で有名な野尻抱影さんのところでも「また、雲晴さんが来たよ」と言われるくらいに天文の先生のところには足繁く通っていたようです。
高橋:ご商売となったのは実際は戦後ですか。
渡辺:創業は昭和12年ですが、戦後に本格的な地球儀を作ろうとして、地球儀研究会を作ったりしましたが昭和37年に株式会社としました。レベルの高い地球儀ができたのですが、初代は「あまり儲けるな」と言ってまして、これが後々影響がありました。良い物を作るのはやってきた会社ですが経営的には厳しかったのです。私は、経営的にもうまくやらなければならないと思い、私の代ではそこのところを努力してきたと思ってます。

■地球儀あれこれ

高橋:色々な地球儀が展示されていますがご紹介いただけますか。
渡辺:大きく分けますと、国別色分けと等高線による色分けの二種類です。それに私共には人工衛星からの画像の地球儀もあります。砂漠地帯と森林地帯が分かるものが「環境地球儀ブルーテラ」です。暗やみで都市や工業地帯など、エネルギー消費の高いところが光を放ち経済活動が盛んなところがわかるようになっているものが「夜の地球儀」です。その他に白地図地球儀といって学校教材用のものもあります。
高橋:星座早見表は教材で使われているようですね。
渡辺:そうです。星座早見表をおわん型にしたのは初代で、特許を取りました。平らだと南の空が横に伸びたように見えるので、アールをつけたのでわかりやすくなりました。
高橋:これから取り組む新たな地球儀はどのようなものがありますか。
渡辺:今売出し中のもので「サッカー情報地球儀」といいまして、ワールドカップサッカーが日本と韓国で開催されることにちなんだ地球儀です。ワールドカップの70年の歴史の中で開催国であったところは濃い緑、参加国はみどり、不参加は薄い緑で色分けしてます。また過去の優勝、準優勝の回数が☆と○のマークで記されてます。サッカー好きな子供達に世界に目を向けてもらいたいと思って作りました。世界をつなぐスポーツは意外と少ないものです。野球なども限られた国しか盛んでは無いですから。
高橋:息子さんのアイデアでできたのですか。またFIFA(国際サッカー連盟)との交渉はどうされたのですか。
渡辺:私が考え、交渉も私がやりました。FIFAとの契約もできてマークも入れて良いことになりましたが、交渉はなかなか大変でした。
 地球儀の製作はある意味で編集業だと思います。地球に関する多くのデータの中から何が必要で何が必要ないかを判断して、求められているものを作り出すことですから。日本に関するところは特に注意して作っています。今回のワールドカップは日本と韓国が開催国です。そこに濃い緑色を付けますから、非常に目立つわけです。日本人にとっては嬉しいことですね。そういう今までの地球儀製作における編集の経験からこの地球儀ができました。  ライセンス商品で期限付きのものを扱ったのは初めてなので、販売に力を入れております。
高橋:小さいサッカー情報地球儀は少年サッカーの優勝の景品になりそうですね。来年にかけて大いに売っていただきたい。その他に最近販売された地球儀はありますか。
渡辺:4年後に完成予定の国際宇宙ステーションと交信する地上基地となる世界5都市を目立たせた地球儀を昨年作りました。
高橋:ところで、地球儀製作において競合の会社はどのようなところがあるのですか。
渡辺:競合は米国のリプルーグル社です。国内では我が社が一番と思ってます。先日、皇室ご一家が地球儀をご覧になってるところがテレビで放送されたのですが、それは私共のものだったのです。
高橋:ご覧になってすぐわかりますか。
渡辺:それはわかりますよ。製品づくりではグレードを落とさないことを基本にしておりますから。本刷りには必ず立ち会いますので、周りにはうるさがられています。
高橋:地球儀は国名などが変わりますが、どういうときに更新をするのですか。
渡辺:そこが大変なところなのです。早く変えなければならないのですが、経営的に考えると印刷ロットがある程度にならないと、ペイしないのですね。ですから、売れている地球儀は早く更新できますね。
高橋:小さい地球儀は情報の内容が少なくなると思うのですが、そこのところはどうでしょうか。
渡辺:小型地球儀は、情報として盛り込める量が少ないですが、わかりやすく正確を心がけてます。当社は東海大学情報技術センター(TRIC)と衛星地球儀を始めとして、次世代の新しい地球儀に関して産学協力体制を敷いております。衛星地球儀は宇宙からの観測データをTRICで処理し、1986年に世界で初めて衛星データを地球儀として出して以来、ブルーテラ、スカイテラ、夜の地球儀と宇宙からの情報を元に新しい地球儀を作り続けております。また、平戸に残っております300年前にオランダで作られたファルク地球儀・天球儀の復製依頼に関しては、文化財保存の立場からTRICと共同でデジタルアーカイブ計画を立て、復刻作業に臨みました。撮影画像をコンピュータ処理し、衛星地球儀と同じ手法で、全体画像を「舟形」と呼ばれる紡錘形の12枚の画像に変換し、カラープリンターに出力したものを球体に貼り付けて300年前の地球儀のレプリカを完成させました。最先端技術を使って古い地球儀の復刻ができたのです。
高橋:ところで、大きい地球儀は主に誰がどういう目的で買うのでしょうか。
渡辺:図書館や公共施設です。ずっと眺めていたいと言う、地球儀が好きな個人の方もお買いになります。去年、台がガラス製の55万円のものを買ったのは若い女性でした。意外なところに地球儀好きな方がいるのです。
高橋:地球儀、火星儀や月球儀等は製品化されていますが、惑星は水金地火木土天海冥とあるなかでどこまで作られているのですか。
渡辺:惑星では地球儀と火星儀だけですね。データもあるので金星を作ってはどうかと言われるのですが、コストの問題もありますから難しいですね。月球儀はよく売れます。月というものは実は平板なものではなく、地球に向かっている方は滑らかで薄い表面なのですが、反対側の見えない部分はでこぼこがあるものです。

■ビジネスの基本はグレードを落とさないこと

高橋:地球儀は需要としては急激に増えるものでは無いので、地道な商売で質の高いものを一定時期に出していかなければならないと思いますが、製品企画時のヒントはどのようなところから得ていますか。天文台の先生との意見交換、コンサルタントに頼るのか、それとも一人で考えるのですか。
渡辺:一人では良いことではないですね。頻繁に製作時にお話しているのは地図製図士さんですね。カートグラファーと言いまして、20年来私共の地球儀作りに携わっております。その方とは微に入り細に入り話し合ってます。都市名を入れるかどうか等相談してます。色、デザインは私共が決めます。売れるかどうかは色や台のデザインにもよります。地球儀の台をカナダ産のメープル材にしたところ値段は高いのですが売れました。  またネーミングにも気を使ってます。一億分の一の地球儀を発売したときはブルーテラと名付けました。結構こだわってます。日本の方はこだわる方が多いですね。こだわって作ったものは嫌いであるはずがないと考えます。お買いになる方に私共のこだわり方がわかればそれで良いと思ってます。
高橋:販売の工夫などビジネス上で気を付けているところをお聞かせ下さい。
渡辺:直接販売できるデパートを増やしたり、ホームページで販売もしてます。また、グレードを落とさないことですね。どこかにさがしているお客様が必ずいると思って作ってます。それに、経営面では社内の風通しをよくしようと考えてます。今年から養護学校の生徒さんを採用したのですが、そのことで社内が、誰でも分かるような仕事運びになればよいと思ってます。
高橋:会社の状況は万全と思いますが、一昨年の貸し渋りの時はどうでしたか。
渡辺:貸し渋りはあったのですが、貸し渋りをするなんて何事と思ってましたね。取引銀行は本社のあった都内の都市銀行だったのですが、その後、地元の銀行とのつきあいが始まったのです。地元の銀行にもネットワークがありますので、私も大いに使ってます。変化があって良かったと思ってます。

■後継者の存在は事業意欲につながる

高橋:ご子息は後継者として一緒に働いていらっしゃるのですか。
渡辺:まだ長男は24才で、今は地図を作っている会社に勤務してます。子供にこの会社を渡すときにきちんとして渡したいと思って頑張ってます。
高橋:本シリーズで前回伺った造り酒屋でもご子息に「一流企業に勤めても定年になれば只の人だけれど、家業を継ぎ頑張れば家業の発展にもなる」といって家業を継がせたとお話されてました。最初は小売店廻りをさせたようです。
渡辺:そうです、最初はお客様の顔を覚えないとね。実は私共では、学生時代からイベントの時など働かせたり、パンフレット作りなどをやったりで、メチャメチャに巻き込んでます。息子も突然会社を任されても困りますよね。
高橋:利益の上がる企業にして後継者にバトンタッチするのですね。
渡辺:多くの種類の地球儀を開発してきて、まだ、開発費にかけている状況ですが、それも後継者がいるからです。息子3人いれば誰かが続いてくれると思いましたから頑張って来ました。
高橋:後継者がいるからこそ事業意欲も出るのですね。
渡辺:本当にそうです。取引企業のプラスチック製品製造や金属関連企業にも後継者がいるかどうか必ず聞きます。当社の仕事を良く判る企業が無くなると困りますから。当社のポータブルプラネタリウムの半円形の部分は、へら絞りの技術のあるところに外注していました。しかしへら絞り技術の継承に不安を持ちまして、金型代がかかりましたが、プラスチックに変えました。

■行政に望むこと

高橋:行政への要望はありますか。
渡辺:関東経済産業局に直接関係は無いのですが、地球儀をとおしてお付き合いのある博物館を見ていると、建物は立派にできているのですが収集と展示と説明の費用が少ないように思います。私共の博物館仕様の地球儀も欲しいけれど予算が無いと言われることが多いのです。展示についても子供達に面白くお話しできる方が重要なのです。博物館が倉庫になってしまってはもったいないと思います。建物だけでなく展示して、上手な説明を作ったりする運営費が必要なのです。実は私は学芸員の資格を持っているので博物館の学芸員のそういう悩みは良く判るのです。  また、女性が仕事を続けて行くには保育所など育児支援が重要です。これらの整備をしていただきたいと思います。

■おわりに

高橋:地球儀づくりは、東海大学情報技術センター等の先端のところと情報をやり取りし、その情報を取捨選択して印刷するのですが、最後が内職的になる。前段階は学術的なのですが最後は手作業で球形に貼っていく。そこのところに不思議な面白さがあり、興味深いですね。
渡辺:こだわると手工業になるのです。こだわりがあるのが売りです。手で貼ってますから張り替えも可能です。昔の地球儀ですと地名国名が変わってくるとおっしゃるのですが、当社は年代を入れているので、その時代の政治図がわかるとご理解いただきたいと考えてます。
高橋:今後の事業展開をお聞かせ下さい。
渡辺:私共は今後とも地球儀を中心に行っていきます。精密な地球儀にこだわって行きたいと思ってます。地球儀自体は無くならないと思いますので。球体でしか判らない距離や方向を判っていただくことが私共の役割と思ってます。
高橋:ありがとうございました。

高橋:地球儀づくりは、東海大学情報技術センター等の先端のところと情報をやり取りし、その情報を取捨選択して印刷するのですが、最後が内職的になる。前段階は学術的なのですが最後は手作業で球形に貼っていく。そこのところに不思議な面白さがあり、興味深いですね。
渡辺:こだわると手工業になるのです。こだわりがあるのが売りです。手で貼ってますから張り替えも可能です。昔の地球儀ですと地名国名が変わってくるとおっしゃるのですが、当社は年代を入れているので、その時代の政治図がわかるとご理解いただきたいと考えてます。
高橋:今後の事業展開をお聞かせ下さい。
渡辺:私共は今後とも地球儀を中心に行っていきます。精密な地球儀にこだわって行きたいと思ってます。地球儀自体は無くならないと思いますので。球体でしか判らない距離や方向を判っていただくことが私共の役割と思ってます。
高橋:ありがとうございました。



    高橋春樹(たかはしはるき)
    関東経済産業局長
    昭和25年2月10日生
    昭和47年 東京大学法学部卒 通商産業省(現経済産業省)入省。千葉県企画部次長、資源エネルギー庁ガス事業課長、中小企業庁小規模企業政策課長、同総務課長、同計画部長を経て平成11年9月より現職。


    渡辺美和子(わたなべみわこ)
    (株)渡辺教具製作所代表取締役
    昭和24年1月7日生
    昭和46年 跡見学園女子大学英文科卒
    昭和46年より貿易商社、ホテルオークラ内フランネル画廊勤務
    昭和49年 (株)渡辺教具製作所3代目となる渡辺浩と結婚
    昭和62年 (株)ラボ教育センターのチューターとなり、自宅で英語教室を開く
    平成7年 (株)渡辺教具製作所3代目社長死亡により、代表取締役就任現在に至る