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埼玉新聞 2010年6月22日付

地球儀で世界と歴史学ぶ

 地球儀のトップメーカー「渡辺教具」(草加市稲荷町)は工場と民家が混在する町の小さな町工場だ。渡辺美和子社長は、飢餓地域を赤い色で描き込んだ地球儀を手に「アフリカがいま一番苦しんでいる。だから、サッカーのワールドカップ(W杯)は成功してほしい。アフリカに自信を取り戻してほしい」と熱い思いを語った。(岸鉄夫)

草加の「渡辺教具」

 草加市教育委員会がバックアップする大人向け文化教室「そうか市民大学」の生徒たち20人が参加した見学会に同行した。同社で作るさまざまな地球儀を手に取りながら語る渡辺さんの説明に、同市金明町の元会社員遠藤健二さん(72)は「地球儀からいろんなことが学べるとは素晴らしい。奥の深い仕事ですね」。

地球学

 政治的地球(ポリティカル・グローブ)の地球儀は国別に色分けされる。W杯観戦には都合が良い。西サハラ、チベット、カシミールなど、領土紛争がある所はグレーや白っぽくする。
 ある放送局の注文で作った地球儀で、サハリンをグレーゾーンにした。局の担当者は「うちではロシア領にしているので、ロシアの色でお願いします」と言う。
 「地球儀を作ることが、こんなに政治的だとは」と、渡辺さんは驚いた。放送局の言葉にはちょっとおかしいな、とも思う。

衛星画像を反映

 同社は15年前から東海大学情報技術センターと協力、産学連携で多彩な地球儀を手掛けている。人工衛星画像を地球儀に反映させた。湖でかつて世界4位の広さとされたアラル海は、今は小さく枯れた。
 「無制限にかんがい用水を引いたため、水が枯れた。人間の破壊力が大きい。これは人災です。アラル海の現実は環境問題の怖さを感じます」

ペリー艦隊と沖縄

 幕末の米国・ペリー艦隊の航路を描いた地球儀に苦労した。県内には文献がなく、東京の江戸東京博物館の図書館で、やっとペリーの公開日記を見つけた。
 「西海岸からハワイを通って来たのではなかった。東側からアフリカ大陸を回り、インドネシアから沖縄へ。沖縄では長期滞在して、サスケハナという船を造っていた。意外でした」
 アメリカと沖縄の縁は、ペリーの時代からだった。

初代の志

 2階の工場が同社の心臓部。男女3人のベテラン職員が球形を18分割した地図をプラスチックの球体に張る。「紙には縦目、横目がある。布と同じ。職人さんが上手に加減しながら張っています」
 最新の情報技術と昔ながらの頑固な手作業の両立。これが同社の特徴だ。
 創業は1937(昭和12)年。初代渡辺雲晴は利益追求より質、良い教材を作ることを重視したという。35年前に「ラーニング・スルー・ザ・ユニバース」(宇宙から学ぶ)というキャッチコピーを考えた「3代目の嫁」が今の渡辺さん。代表を務めて15年。
 「国境の考え方の違いなど、国際政治の事情が地球儀には出る。持続可能な地球を考えたり、地球環境について語りたい。使命を感じつつ、初代の志を受け継ぎチャレンジを続けます」と語る。